◆第147話:意味を伝えなければ価値は伝わらない ~「なるほど」が人を動かす~

 

「南澤さん、新しいサービス名を考えたのですが、お客様から『どういう意味ですか?』とよく聞かれるのです。」―――これは、自社ブランドの立ち上げに取り組む経営者との会話の中でいただいた相談です。

 

商品名やサービス名は、その会社の想いや特徴を表す大切なものです。そのため、多くの企業が時間をかけてネーミングを考えています。変わったネーミングには、人を惹きつける力があります。

 

品質問題で話題になったこともありましたが、小林製薬の商品名は実に秀逸です。アイボン、熱さまシート、消臭元、ブルーレット……。商品名を見ただけで何の商品なのかが感覚的に伝わります。

 

商品そのものとネーミングが一体になっているからです。このような名前を付けられる商品は、ある意味では限られているのかもしれません。

 

ところが、世の中の商品やサービスの多くは、名前だけでは意味が伝わりません。

 

南澤が長年携わった自動車業界も同じです。トヨタの「カローラ」、日産の「スカイライン」、マツダの「デミオ」、スズキの「ワゴンR」、ダイハツの「タント」……。車という商品自体は誰でも知っていますが、名前の由来や開発者の想い、コンセプトまで知っている人は決して多くありません。

 

営業時代、お客様から「この車名にはどんな意味があるのですか?」と聞かれることがよくありました。その意味をお伝えすると、「なるほど、そういう意味だったのですね」と納得していただく場面を何度も経験しました。

 

名前に込められた意味を知るだけで、その商品への印象が変わるから不思議なものです。

 

最近、浜松で「でしこ」というブランド鰻をいただく機会がありました。「でしこ」は、国産のメスうなぎだけを使用したブランドで、高い品質基準を満たしたものだけが名乗ることができます。

 

その名前には、【で】伝統を守り、【し】進化を続け、【こ】幸福を届ける、という意味が込められているそうです。

 

聞けば「なるほど」と思います。しかし、言われなければ、その意味を想像することは難しいでしょう。

 

ここに重要な本質があります。

 

価値は、存在しているだけでは伝わりません。

 

相手がその意味を理解し、「なるほど」と感じた瞬間に、初めて価値として認識されるのです。

 

もちろん、名前だけで商品が売れるわけではありません。しかし、その名前に込められた意味や、開発者の想い、背景にあるストーリーが伝わることで、商品やサービスの価値は何倍にも大きくなります。

 

実は、これは商品名だけの話ではありません。会社名、商品名、サービス名、研修名、さらには企業理念まで、すべて同じです。どれほど優れた商品やサービスであっても、その意味や価値が相手に伝わらなければ、本来の魅力は十分に伝わりません。

 

営業の現場でも同じことが起こります。商品の機能ばかりを説明する営業担当者は少なくありません。

 

しかし、お客様が本当に知りたいのは機能ではありません。「自分にとってどのような価値があるのか」「どのようなメリットや利便性があるのか」。つまり、お客様自身への意味づけなのです。

 

人は、商品の説明では動きません。自分にとっての価値が理解できた時に、初めて行動へ移ります。

 

これは組織の中でも全く同じです。

 

例えば、人事制度や評価制度を新たに導入した企業では、「制度は完成した」というところで満足してしまうことがあります。しかし、社員一人ひとりが、「この制度によって自分にはどのような価値が生まれるのか」を理解できなければ、制度は形だけのものになってしまいます。

 

実際、制度そのものは良くできていても、十分に運用されていない企業は少なくありません。その多くは、「制度を説明した」だけで終わっているのです。

 

重要なのは、制度を説明することではありません。社員が「なるほど、それならやってみよう」と思えるところまで伝えることです。

 

では、「なるほど」と思っていただくためには何が必要なのでしょうか。

 

まず必要なのは、伝える側が深く理解していることです。表面的な知識だけでは、人の心は動きません。背景や目的、そこに込められた想いまで理解しているからこそ、自分自身の言葉で語ることができます。

 

そして、深く理解している人ほど、その商品やサービス、制度に対する思い入れが生まれます。その思いは自然と言葉に表れ、相手にも伝わっていきます。

 

さらに重要なのが、「誰が伝えるか」です。どれほど正しい内容でも、信用や信頼がなければ相手には届きません。営業でも、人材育成でも、組織運営でも同じです。日頃から積み重ねてきた信用と信頼があるからこそ、「なるほど」という納得につながるのです。

 

人は、正論だけでは動きません。

 

「なるほど」と納得し、その先にある「思い」が伝わった時に、初めて行動へと移ります。

だからこそ、営業も、採用も、人材育成も、理念浸透も、本質は同じなのです。

 

大切なのは、価値を一方的に説明することではありません。

相手が「なるほど」と感じ、自分自身の価値として受け止められるように伝えることです。

 

その積み重ねが、人を動かし、組織を動かし、企業の成長につながっていきます。

 

貴社では、「なるほど」と思っていただける伝え方ができていますか。また、そのような人材を育成する仕組みや組織文化が根付いているでしょうか。

 著:南澤博史

 

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