
「南澤さん、AIが普及すると営業担当者は不要になるのでしょうか?」―――これは、先日営業研修終了後に受講者からいただいた質問でした。
最近は研修でもAIに関する質問を受ける機会が急激に増えています。提案書作成、情報収集、議事録作成、商談準備など、さまざまな場面でAIが活用されるようになりました。
世の中の議論も、「どの仕事がAIに代替されるのか」という話題に集中しています。しかし、本当に営業担当者は不要になるのでしょうか。
南澤はそうは考えていません。
もちろん、一部の仕事はAIに置き換わるでしょう。例えば、低価格商品やネット上で完結する商品の販売です。現在でもECサイトでは、営業担当者を介さずに多くの商品が売買されています。
今後はAIが接客や提案を担う場面も増えていくはずです。しかしながら、高額商品や長期的な関係性が必要な商売はどうでしょうか。
車の販売を例に考えてみます。
注文まではAIが対応できたとしても、納車までしてくれるでしょうか。納車時に感謝の気持ちを伝え、お客様と関係を築き、次回の買い替えにつなげることまで本当にできるのでしょうか。
南澤は難しいと考えています。
なぜなら、AIが苦手とするものがあるからです。
AIが苦手なのは、単に感情を伝えることではありません。相手の感情を察し、その場の空気を読み、本音を引き出しながら信頼関係を築くことです。
言葉以外の非言語情報から相手の本音を読み取ることは、依然として人の得意な領域でしょう。
例えば、お客様が「高いなあ」と言ったとします。
本当に価格が高いと思っているのか。それとも予算の問題なのか。あるいは価格に見合う価値が伝わっていないのか。
実際の商談では、その言葉の裏側にある真意を探ることが重要になります。表情や声のトーン、間の取り方などから相手の本音を読み取り、「あなたのことを理解しています」というコミュニケーションを積み重ねることで、信頼関係は構築されていくのです。
ここで営業を大きく二つに分類してみたいと思います。
一つは「情報提供型営業」です。商品情報や価格、機能などを説明し、顧客に判断材料を提供する営業です。
もう一つは「関係構築型営業」です。顧客の課題や悩みを引き出し、信頼関係を築きながら解決策を提案する営業です。
AIが得意なのは前者です。情報収集や比較検討、提案資料の作成などは、今後さらにAIが担うようになるでしょう。
一方で後者はどうでしょうか。
顧客の本音を引き出し、信頼関係を築きながら課題解決へ導くことは、まだまだ人のほうが優れていると南澤は考えています。
実際に南澤自身も営業時代、多くの商談を経験してきました。
振り返ると、お客様は商品だけで購入を決めていたわけではありません。同じ商品を扱っていても売れる人と売れない人がいました。そこにあった違いは、商品知識だけではありません。お客様との関係性です。
この担当者から買いたい。この人なら任せても大丈夫。そう思っていただけるかどうかです。
南澤はかつて、お客様からこのような言葉を何度もいただきました。
「私はおたくの会社と取引しているけど、南澤さんだから買っているのよ」
もちろん、商品や会社の信用があることは大前提です。しかしながら、最終的な決め手になっていたのは、担当者との信頼関係でした。
だからこそ、営業という仕事は単なる商品説明ではありません。顧客との関係性を築き、その中で課題解決を行う仕事なのです。
営業の本質は「顧客の課題解決」と言われます。
では、AIが本当に顧客の真の課題を見抜き、解決まで導けるのでしょうか。
南澤は、AI単独ではまだ難しいと考えています。
なぜなら、顧客自身も気づいていない課題や、本音として言葉にしていない悩みが存在するからです。
しかし一方で、AIを活用することで課題解決の可能性は大きく高まります。
情報収集のスピード。
業界事例の検索。
提案内容の整理。
仮説の構築。
これらはAIが非常に得意とする領域です。
つまり、AIがすべてを代替するのではありません。
人が顧客の本音を引き出し、AIが情報整理や分析を支援することで、これまで以上に質の高い課題解決が可能になるのです。
もちろん、AIは大きな力になります。
提案書作成も短時間で行えますし、最近では商談シミュレーションも可能になりました。AIが顧客役となり、質問を投げかけてくれます。
これを活用することで、若手営業でも短期間で多くの経験を積んだかのような学習が可能になります。
南澤も積極的にAIを活用しています。正直なところ、情報収集や文章作成のスピードは大幅に向上しました。
しかし、それでもAIだけで営業が成立するとは考えていません。
対面商談で感じる空気感。顧客との距離感。表情の変化。言葉にならない違和感。こうしたものは実際の現場でしか学ぶことができません。
VRやシミュレーション技術が発展しても、まだ現実の商談には遠く及ばないでしょう。
また、AIは誰でも使える道具です。
しかし、同じAIを使っても成果は同じにはなりません。質問する力、課題を発見する力、本質を見抜く力。こうした力が高い人ほど、AIから得られる成果も大きくなります。
言い換えれば、AIは人の能力差をなくすのではなく、むしろ拡大する可能性があるのです。
南澤が営業を始めた頃は、紙の地図帳を片手にお客様のご自宅を探していました。しかし今では、カーナビなしで営業活動をする人はほとんどいないでしょう。
AIも同じです。今はまだ使う人と使わない人が混在していますが、数年後には当たり前の存在になっているかもしれません。
だからこそ、AIを使う人と使わない人では差が広がると南澤は考えています。ただし、その差は営業担当者が不要になるという意味ではありません。
AIを活用できる営業担当者と、活用できない営業担当者の差です。
情報収集、提案準備、学習速度、業務効率。こうした部分で差が広がります。
言い換えるならば、AIを活用する人が競争優位になるというよりも、活用しない人が競争劣位になるということです。
AIは営業担当者の代わりではありません。営業担当者の能力を拡張する道具です。
タイトルにもある通り、「AIとハサミは使いよう」です。ハサミを持っただけで美容師になれるわけではありません。同じように、AIを使えば誰でも成果が出るわけではないのです。
むしろ今後は、人にしかできない力の重要性がさらに高まるでしょう。
質問力、対話力、共感力、信頼構築力、課題発見力。
これらはAI時代だからこそ価値が高まる能力です。
そして組織としても、AI活用だけを教えるのではなく、人間力を高める育成との両輪が求められます。
AIを導入することが目的ではありません。AIを活用して、顧客へより大きな価値を提供することが目的なのです。
変わるものと、変わらないもの。この両方を見極めることが重要になります。
貴社ではAIを活用する仕組みだけでなく、AI時代でも選ばれ続ける営業担当者を育成する仕組みは整っていますか?
著:南澤博史
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