◆第140話:わかっている変化に対応できる会社とできない会社 ~「そのうち」が一番危険~

 

「南澤さん、人手不足になると言われ続けていたのに、正直ここまでとは思っていませんでした…」―――これは、地方で複数店舗を経営するサービス業の経営者の言葉でした。

 

求人を出しても応募が来ない。ようやく採用できても定着しない。既存スタッフの負担は増え、現場は疲弊していく―――。

 

しかしながら、この流れ自体は、決して突然起きたことではありません。少子高齢化、人口減少、人手不足。これらは、かなり前から分かっていた変化です。

 

にもかかわらず、多くの企業では、「問題が深刻化してから対応する」という流れになりがちです。

 

もちろん、日々の業務に追われる現場では、目の前の対応が優先になります。今日の売上、今日のクレーム、今日のトラブル対応―――。

 

ただし、本当に怖いのは、“今すぐ困らない問題”を放置することです。ここに、大きな落とし穴があります。

 

南澤は、これまで多くの現場を見てきましたが、経営が厳しくなる会社ほど、「重要だけど緊急ではないこと」が後回しになっていました。

 

例えば、人材育成です。人材育成は、今日やらなかったからといって、明日すぐに会社が潰れるわけではありません。

 

しかし、これを数年単位で放置すると、気づいた時には「育つ人がいない」という状況になります。そして、現場を支えてきたベテランが抜けた瞬間、一気に問題が噴き出すのです。

 

これは、設備投資や営業戦略の見直しなども同じです。

 

老朽化した設備を「まだ使えるから」と先延ばしにする。既存顧客だけで回っているから、新規開拓を後回しにする。属人化していても、「あの人がいるから大丈夫」と放置する。その間にも、外部環境は静かに変化しています。

 

そして、変化が表面化した時には、対応コストが一気に高くなってしまうのです。

 

ここで重要になるのが、「時間割引」という考え方です。

人は、将来の大きな利益よりも、目の前の小さな利益を優先しやすい傾向があります。

  

例えば、「今は忙しいから育成は後回し」「教育するより自分でやった方が早い」という判断です。短期的には合理的に見えます。しかし、それを繰り返した結果、いつまでも自分しかできない状態が続きます。

 

南澤も店長になりたての頃、自分で何でもやってしまう傾向がありました。自分でやった方が確実だし、早いし、ミスクレームも起きにくい。その方が楽だと考えていたからです。

  

しかし、このようなことでは、部下の成長機会を奪ってしまいます。店長は、自分が楽をするためではなく、部下を育成するために、仕事を適切に振らなければなりません。

  

これは個人でも組織でも同じです。

 

重要かつ緊急な仕事は、多くの人が取り組みます。なぜなら、放置すると困るからです。一方で、本当に差がつくのは、「重要だけど緊急ではないこと」にどう向き合うかです。

  

ドラッカーも、「時間管理に失敗する組織は、重要ではなく緊急なことに支配される」といった趣旨のことを述べています。つまり、“忙しさ”に流され続ける組織ほど、本来やるべきことができなくなるのです。

  

南澤自身も、これまでに同じ失敗を何度も見てきました。

 

目先の数字を追い、現場対応ばかりしていると、教育や仕組みづくりが後回しになります。その場は回るのですが、長期的には確実に苦しくなっていきます。

 

逆に、忙しい時ほど、あえて「重要だけど緊急ではないこと」に時間を使える店舗は、数年後に大きな差が生まれていました。

 

特に差が出るのは、「仕組み化」です。例えば、育成を個人任せにしている店舗では、教える人によって内容がバラバラになります。

 

結果として、成長スピードに大きな差が生まれます。しかし、教育の流れや教える内容が仕組み化されている店舗では、一定水準まで底上げしやすくなります。

 

つまり、“未来の問題”を先に処理しているのです。これは、医療で言えば予防に近い考え方かもしれません。

  

症状が悪化してから対応するよりも、早い段階で手を打った方が、負担もコストも小さく済みます。ところが、多くの組織では、目に見える問題ばかりに反応してしまいます。

  

スタッフが辞める。すると採用に力を入れる。もちろん採用も重要です。しかし、本当に優先順位が高いのは、「なぜ辞めるのか」を改善することではないでしょうか。

  

出血が止まっていないのに、輸血ばかりしている状態―――。南澤には、そのように見える場面が少なくありません。

 

職場環境、人間関係、育成不足、管理職のマネジメント…。離職には、必ず何らかの構造的な原因があります。そこに向き合わなければ、採用してもまた辞める。その繰り返しになります。

 

さらに言えば、「わかっている変化」に対応できない会社には、ある共通点があります。

 

それは、「今まで何とかなってきた」という成功体験への依存です。

 

過去にうまくいったやり方ほど、人は手放しにくいものです。しかし、市場環境も、働く人の価値観も、顧客ニーズも変わっています。

 

そして、今後さらに大きく変わることが予測されるのが、AIの普及です。

 

我々コンサルタントの世界でも、単なる分析や資料作成などの作業は、今後ますますAIに置き換わっていくでしょう。

 

つまり、「今までと同じ仕事をしていれば大丈夫」という時代ではなくなってきているのです。

 

今後はAIの普及によって、“人がやらなくてもよい仕事”と、“人にしかできない仕事”の差がさらに広がっていくでしょう。

 

だからこそ、単純作業や分析業務だけに依存しないことが求められます。

 

また、企業においても、単にAIを導入して業務効率を高めるだけでなく、「AI時代に自社はどのような価値を提供するのか」という、より広い視点で考える必要があります。

 

にもかかわらず、昔と同じ感覚で経営を続けていると、少しずつズレが広がっていきます。怖いのは、このズレは急激ではなく、“静かに進行する”ことです。

 

だからこそ、危機感を持ちにくいのです。

 

気づいた時には、人がいない。育っていない。利益が残らない。そんな状況になっているケースも珍しくありません。

 

一方で、変化に対応できる会社は、「今はまだ困っていない段階」で動いています。教育に投資する。仕組みを見直す。役割を分散する。データを蓄積する。新しいやり方を試す。

 

つまり、“未来の問題”を前倒しで処理しているのです。そして、その積み重ねが、数年後に大きな差となって現れます。

 

「そのうちやろう」は、案外危険です。

なぜなら、“そのうち”は、多くの場合、永遠に来ないからです。

  

変化は、気づいた時には、すでに取り返しがつかない段階まで進んでいることも少なくありません。

 

さて、貴社では、「わかっている変化」に対して、今のうちから動けているでしょうか。 

また、「重要だけど緊急ではないこと」に取り組める仕組みや文化は、根付いていますか。

 著:南澤博史

 

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