◆第137話:転機は後からしか気づけない ~その時、人は何をしているのか?~

  

「南澤さん、振り返ると、あの時がすべての始まりだった気がします…」―――これは、クライアントである経営者と一杯やっていた時に、思わず漏れた一言でした。

 

その方とは、偶然のきっかけで知り合いとなり、そこから現在までお付き合いが続いています。特別な出会いだったわけではありません。むしろ、どこにでもあるような、ごく普通の出会いでした。

 

しかし、その出会いを境に、この経営者の行動は大きく変わっていきました。依存体質から脱却するために、計画を立て、工程を管理し、これまで避けてきた財務諸表とも向き合うようになりました。

 

それまで考えたこともなかった取り組みを一つひとつ始めていったのです。結果として、事業は継続し、成長軌道に乗っていきました。そして後になって、「あの出会いが転機だった」と振り返るに至ったのです。

 

ここで一つ、違和感があります。転機とは、その時に「転機だ」と分かるものなのでしょうか。

 

おそらく、多くの場合は違います。その瞬間は、ただの出来事に過ぎません。後から振り返った時に、初めて意味が与えられるものです。

 

南澤自身も同じです。入社当時は能力もスキルもなく、モチベーションも高いとは言えない状態でした。しかし、ある出来事をきっかけに、考え方が大きく変わりました。

 

そこから真面目に働くようになり、工夫を重ねるようになり、結果もついてくるようになりました。ただ、その時に「これは転機だ」と認識していたわけではありません。

 

振り返って初めて、「あれが始まりだった」と意味づけされたのです。

 

つまり、転機とは「出来事そのもの」ではありません。「出来事に対してどう行動したか」、そして「後からどう意味づけしたか」によって決まるものだと考えます。

 

ここで重要なのは、二つの視点です。一つは「行動が変わるかどうか」。もう一つは「意味づけができるかどうか」です。

 

同じ出来事を経験しても、行動が変わる人と変わらない人がいます。行動が変わらなければ、結果も変わりません。

 

そして、ここはあえて強く言い切ります。

 

出来事が起きただけで満足している限り、転機にはなりません。

 

この一文が示している通り、出来事そのものに価値があるのではなく、それにどう向き合い、どう行動を変えるかに価値があります。

 

一方で、行動が変わったとしても、それだけでは不十分です。その出来事を振り返り、「なぜ起きたのか」「自分にとって何だったのか」を考える。この意味づけのプロセスがあって、初めて経験は蓄積されます。

 

この点は、営業の現場でも顕著です。日々の失敗やクレーム、商談の不成立などは誰にでも起こります。しかし、それを「仕方がない」で終わらせるのか、「次にどう活かすか」を考えるのかで、その後の成果は大きく変わります。

 

ミスや失敗は、それ自体が問題ではありません。そこから何を学び、どう工夫するかによって、価値に変わります。この積み重ねが成果の差を生むのです。

 

そして、ここで見落とされがちなのが「感謝」という視点です。

 

南澤が営業時代に経験した、あるクレーム対応の話があります。当初は、正直なところ「かなり無茶苦茶な要求だ」と感じていました。現場としては受け入れがたい内容も多く、対応には相当なエネルギーを要しました。

 

しかしながら、逃げずに真摯に向き合い続けた結果、問題は解決しました。それだけではありません。その後、その顧客は良いお客様へと変わっていったのです。

 

さらに、その苦情をきっかけとして、新たな仕組みが生まれました。同じような問題を未然に防ぐための改善が進み、結果として組織全体の対応力も底上げされました。

 

南澤自身も、この一件を通じて対応力が大きく向上しました。今振り返ると、その時の出来事だけでなく、その後のやり取りも含めて、顧客に対して感謝しかありません。

 

このように考えると、転機となる出来事には、必ず「人」が関わっています。出会いであれ、指摘であれ、時には厳しい要求であっても、それがきっかけとなって成長が生まれます。

 

この感謝の感覚があるかどうかで、その後の行動の質は大きく変わります。単なる経験で終わるのか、それとも次につながる糧になるのか。その分岐点とも言えるでしょう。

 

さらに、この考え方は個人にとどまりません。組織にもそのまま当てはまります。

 

転機を活かせる組織と、活かせない組織の違いは、「振り返りの仕組み」があるかどうかです。出来事を共有し、失敗を責めず、学びとして言語化する。このプロセスが組織に組み込まれているかどうかです。

 

この仕組みがある組織では、経験が資産として積み上がっていきます。一方で、場当たり的に対応して終わる組織では、同じことが繰り返されます。

 

転機は、特別な出来事だけに存在するものではありません。日常の中にも無数に存在しています。何気ない失敗や違和感、小さな気づき。これらすべてが、行動を変えることで転機になり得ます。

 

転機は、待つものではありません。偶然に左右されるものでもありません。出来事をどう扱うかによって、「転機になるかどうか」が決まるのです。

 

さて、貴社では日々の出来事を「転機」として活かす仕組みがありますか?その出来事を振り返り、意味づけし、次の行動につなげる文化は根付いているでしょうか。

著:南澤博史

 

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